世代が変わると、デート代の当たり前が変わる
恋人と会計の場面に立つ。男性側がスッと伝票を取る。女性側はそれを当然のように見守る。この光景はミレニアル世代までは大人のマナーとして通用していた。ところがZ世代のカップルでは、伝票が運ばれた瞬間に二人ともスマホを取り出し、PayPayの送金画面を開く。
価値観の地殻変動はもう起きた。問題は、それぞれの世代がそのことに気づいていないか、気づいていても旧来の感覚を捨てきれずにいる点にある。
Z世代は1996年から2012年生まれ、ミレニアル世代は1981年から1995年生まれという区分が一般的に使われる。年齢にすると現在13歳から29歳と30歳から44歳。この約15年の差は単なる年齢差ではない。日本のデフレ脱却前後、リーマンショック、SNSの普及、コロナ禍、物価高、ジェンダー教育の浸透という別々のレイヤーを浴びてきた世代差である。
世代論を持ち出す意味
世代でくくるなという反論がある。一理ある。しかしマクロのデータを見ると傾向は明確に出る。それを知らずに自分の常識で振る舞うと、相手をぐっと冷めさせてしまう。世代論は乱暴な道具だが、無自覚な押し付けを避けるための補助線にはなる。
Z世代とミレニアル世代、それぞれのお金への基本姿勢
ミレニアル世代は貯蓄・投資に向かう
ミレニアル世代が今後消費を増やしたい項目として貯蓄・投資が国内旅行・外食・食料品より上位に来ていた。子育てや住宅ローン、教育費が視界に入る30代後半から40代前半は、デート代以前に生活基盤の安定への関心が強い。Z世代の推し活のような能動的な娯楽消費とは方向が異なる。
ここに、デート代の話が世代によって温度差を持つ根本がある。Z世代は娯楽の予算配分の中でデートを位置づけ、ミレニアル世代は社会的役割と将来資産の中でデートを位置づける。
デート代における3つの決定的な違い
違い1 割り勘比率がそもそも違う
好きな人とのカフェや食事の会計について理想も現実も2人分を割り勘が1位だった。これがZ世代のベーススタンダードである。
違い2 デート単価が違う
現在の1カ月あたりのアルバイト収入平均は5万円。一人暮らし学生は月収約5.9万円に対して生活費が月平均5.5万円と肉薄しており、可処分所得の余白はほとんどない。この収入水準でのデート単価としてはむしろ妥当な相場感だ。
月々のデート費用について男性の48%が1万円から3万円を選び、女性は5千円から1万円と1万円から3万円が34%で同率1位だった。一回のデートを派手にする発想は薄れ、低単価で回数を重ねる方向にスライドしている。
違い3 決済の質感が違う
PayPayの個人間送金(送る・受け取る)とグループ支払いは、Z世代のカップルの会計様式を根底から変えた。PayPay公式発表によると2024年8月10日時点で登録ユーザーが6,500万人を突破、日本の人口の約2人に1人以上が登録している計算になる。ファミレスで男性が一旦支払い、女性が席を立つ前にQRを読み取って端数まで送金する光景は、もう珍しくも何ともない。
先にお店では男性に払ってもらって、女性が後からPayPayで半分送金することが多いという大学生の証言が紹介されている。男性の面子と女性の罪悪感を同時にかわすハックとして定着しつつある。ミレニアル世代までの奢る・奢られるという二元論は、テクノロジーによって溶かされた。
Z世代同士のカップル対等が最優先の通貨になっている
タイパで動く恋愛
Z世代がマッチングアプリで同時にメッセージ交換している相手の人数が4人以上で33.3%、デート約束までの日数が1週間未満が20.0%という結果が出ている。婚活ど真ん中世代や40代以降と比べて約2倍以上のスピード感だ。
デートにダラダラ時間と金を使うのはタイパが悪い。サクッと会い、サクッと判断する。これが彼らのテンポである。
ある大学4年生のエピソード
知人を介して話を聞いた東京の私立大学4年生の女性は、付き合って半年の彼との初めての本格デートで自分から1,500円をPayPayで送ったと話していた。奢ってもらうと、その時点でフェアじゃない感じがして、次に会うときにどっと気が重くなる。彼の方も「ありがとう」とだけ返してきたという。重さも借りもない。ふわっと軽い感情のまま次の予定が組まれる。これがZ世代の恋愛の手触りだ。
ミレニアル世代がZ世代と付き合うと起きるギャップ
ありがちな失敗パターン
30代後半の男性が20代前半の女性と付き合うケースを何度も観察してきた。男性側はここは出すよと伝票を取る。女性側は最初は遠慮するが、それを奥ゆかしさと解釈してそのまま奢る。3回目のデートあたりで、女性からちゃんと割り勘にしたいですとLINEで申し出が来る。男性は混乱する。俺の何が悪かったのかとぐるぐる考える。
悪いことは何もしていない。ただ、女性の側はずっと奢られ続けたら対等じゃないと感じ始めただけだ。ミレニアル世代の男性は俺がリードして引っ張ってあげる価値観を内面化している人が多いが、それはZ世代女性にとって時に圧迫として作用する。
逆パターンの誤算
ミレニアル世代の女性がZ世代の男性と付き合うパターンでは、別の落とし穴がある。30代半ばの女性はカジュアルなご飯くらいは奢ってもらえる感覚を残していることが多い。一方Z世代男性は迷いなく割り勘を提案する。女性側はケチや私への気持ちが足りないと解釈してしまう。
しかしZ世代男性の中にはジェンダーロールを押し付けられたくない、恋愛に過剰なお金を使いたくないと語る層が確かにいる。これはケチさではなく価値観の表明である。Omiaiの調査でもZ世代男女からそうした声が確認されている。
ギャップの正体
世代によってお金の出し方が示す意味が違うのだ。ミレニアル世代では奢る=大事にしている表明、Z世代では対等=大事にしている表明になる。同じ感情を、真逆の行動で表現している。ここを翻訳せずに付き合うと、もやもやが積もる。
世代を超えてデート代の話を成立させる方法
ステップ1 最初の3回で話題に出す
取材で繰り返し聞いた成功カップルの共通点は、付き合うかどうかの境目で会計の話をきちんと言葉にしていることだった。相席屋の調査でも、Z世代の63.8%が付き合う前のお金の話に抵抗はないと回答している。タブー視している方がもう古い。
具体的には3回目までのデートで、私は割り勘の方が気が楽なタイプなんだけどどう、と切り出してしまう。曖昧にぼかすほど後で爆発する。
ステップ2 役割を固定しない
毎回割り勘も毎回どちらかが全額も、長く続けると歪みが出る。誕生日や記念日は片方が払い、普段は折半、相手の好きなお店に行く時はそちらが多めに、というように場面で揺らす。これがミレニアル世代男性とZ世代女性の組み合わせで実際に機能している折衷案だ。
ステップ3 送金のスマートさを共有する
PayPayの送る・受け取るやグループ支払い、LINE Payの送金などで端数まで精算する習慣を導入する。これは作業の効率化ではない。金銭授受の象徴的な意味を弱めるための儀式である。奢ったから貸しがある、奢られたから借りがあるというモヤモヤを物理的に消す装置として機能する。
ステップ4 経済力の差を直視する
国税庁の令和5年分民間給与実態統計調査によれば、20代前半の平均年収は267万円、20代後半が394万円、30代前半が431万円、30代後半が466万円。世代間で収入差は明確にある。だから世代差カップルでは形式的な完全折半が公平とは限らない。収入比率で按分するカップルも増えている。Z世代の合理性をミレニアル世代側がうまく受け止められると、関係はぐっと安定する。
世代論より、目の前の相手との対話が全てだ
ここまで世代差をくっきり描いてきたが、最後に身も蓋もない結論を置く。世代論は道具に過ぎない。目の前の恋人がZ世代の平均と一致する保証はどこにもない。
僕と私と株式会社のZ世代・ミレニアル世代恋愛観に関する意識調査では、Z世代の交際人数は1〜3人が約6割、ミレニアル世代は4人以上が過半数で10人以上が15.4%という違いはあった。しかし同調査内でも世代別ではZ世代の21.6%、ミレニアル世代の18.8%が直近の出会いはマッチングアプリと、両世代の差が小さい項目もある。データは傾向の話であって、個人の話ではない。
割り勘派のミレニアル世代もいれば、ガンガン奢りたいZ世代もいる。あなたの世代は普通こうでしょと決めつけて話す人は、世代を超えて嫌われる。
伝えたい言い切りはひとつだ。世代の傾向を知った上で、目の前のその人に直接聞け。会計の前に。3回目までに。あなたがどう感じているか、相手がどう感じているか。データはきっかけにしかならない。最後に効くのは、ぎこちなくても自分の言葉で交わす対話だ。
恋愛は対等な営みである。お金の流れ方は、対等さの最も具体的な現れ方の一つだ。ここを曖昧にして始まる関係は、必ずどこかで詰まる。逆にここを丁寧に話せた関係は、世代差を超えて長く続く。見てきた限り、これだけは間違いない。
